ドネツク市からはどこにも避難できません

ウクライナのゼレンスキー大統領は7月30日、
ロシア軍との激戦が続く東部ドネツク州の住民に強制退去を命じる考えを示しました。

一方、ドネツク市では…。

ドネツク市のYさん(30代の女性)からの手紙を紹介します。

8月3日
それは周辺の町からの避難のことで、ドネツク市自体からはどこにも避難できません。
ドネツク市は 2014 年から占領されていて、境界は閉鎖されています。

先週ここは本当にひどい状態でした。
たくさんの砲撃と、地雷「花びら」も空から降っています。
それは緑色で、葉っぱのように見えます。
そのような地雷を誤って踏まないように、今では人々は家からに出ることができません。
ただ、すべての地区がそうではなく、
私たちの住む地区では、それを2ブロック離れた場所に捨て、そこを歩いたり車で通ったりすることを禁止しています。

いつかは、すべてよくなるでしょう…。

8月4日
たとえドネツク市から避難できるようになったとしても、
私は病気のため、家を離れることはできません。

攻撃の続く中、家にいるのは恐ろしいですが、
一方で自分の家で自由にしていられることは快適です。
私は突然発作が起きることがあるので、外出することができません。
攻撃が収まっているときに、少し庭に出るだけです。
ですから、避難のために移動することは私には無理です。
また、家では自由に過ごせますが、もしどこかに避難したとしたら、
その場所の規則などに従わなければならないでしょう。

私はよく日本のブログ、特に料理のページを見ています。
そういうのを見ていると、心が落ち着きます。

いつかあなたと再会できる日を待ちます。


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ドネツク州の避難対象の地域にも、
彼女のようにいろいろな事情により、避難したくてもできない人がいるのではないかと思います。

Yさんに、ドネツク市の人たちは今の状況をどう思っているのかと聞いたところ、以下の返信がありました。

「ここでは、戦争に対しての人々の考えはさまざまです。
ロシアに罪があると考える人もいれば、ウクライナに罪があると考える人もいます。
私はロシアとは全くつながりがなく、友人も、親類も、みなウクライナに住んでいます。
ですから私はその人たちのことがとても心配で、そこで戦争が起きてほしくはありません。
私は自分の国、ウクライナを愛しています。
しかし、ドネツクも今、双方の側から攻撃を受けていて、生きていくのが難しいです。
多くの建物が破壊され、多くの人たちが亡くなっています。
いま人々は、破壊と死に対してウクライナに恨みと怒りを抱き始めています。
町には安全な地域はありません。
私はただ、普通の人たちと軍の人たちを区別するようにしています。
軍人たちは人々の安全に気を留めていません。
彼らには領土だけが必要なのです。」

以下は、子ども基金ボランティアHさんによる解説です。

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ドネツク市は、2014年からロシア側(ドネツク民共和国)支配地域です。
ウクライナはロシア側支配地域のドネツク民共和国とルガンスク人民共和国の「独立」を認めていないため、
ウクライナ側が言う場合はあくまで全域がドネツィク(ドネツク)州とルハンスク(ルガンスク)州です。
(ロシア以外に独立国として認めているのはシリアや北朝鮮などに限られる。)

ウクライナ政府が住民の避難を求める対象地域には、ロシア側支配地域も含まれると思われますが、
実際に効力を発する地域は当然ウクライナ側支配地域のみです。

この春のロシア軍による侵攻以降、ルハンスク州はほぼ全域がロシア側の支配下に入りましたが、
ドネツク州は今も海側の半分くらいがロシア側で、内陸半分くらいはウクライナ側にあり激しい戦闘が続いています。

これらの地域は、ロシア系の人が多く、ロシア語を主に話す人が多いため、
ウクライナの中でも「親ロシア」的な地域ですが、
そもそも「親ロシア」=親モスクワ、親プーチン政権という訳でもなく、
住民の多くは複雑な気持ちを抱えています。
今回の戦争で、ロシアに「裏切られた」という思いを抱く、「親ロシア」の人も少なくありません。

「花びら」と呼ばれる対人地雷は、空中散布型のもので、
効率よくばら撒くために空気抵抗の少ない植物の種や花びらを思わせる形状をしています。
子どもがおもちゃと誤って手にして被害に遭うことも多く、悪魔の兵器の異名を持ちます。
なお、ウクライナは対人地雷禁止条約を批准しており、公式にはこのタイプの地雷は全廃したとされます。
一方、ロシアは、条約に加わっておらず、今も大量に保有しています。